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国連WFP協会会長 安藤宏基 カンボジア視察報告会

国連WFP協会会長 安藤宏基 カンボジア視察報告会
, WFP日本_レポート

国連WFP協会は、2010年12月14日(火)、国連WFP協会会長の安藤宏基による、評議員企業・団体様向けのカンボジア視察報告会を開催しました。講演会とトークセッションの内容をご紹介します。

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母子健康プログラムの支援現場で。

国連WFP協会は、2010年12月14日(火)、会長 安藤宏基(あんどうこうき)による、評議員企業・団体様向けのカンボジア視察報告会を開催しました。安藤は今年の8月に初代会長丹羽宇一郎氏の退任に伴い後任者として当協会の会長に就任しました。そして11月に飢餓の最前線をまず自らの目で確かめるべくカンボジアに足を運びました。

報告会は、まずWFP国連世界食糧計画日本事務所代表 モハメッド・サレヒーンのオープニングリマークスに始まり、続いて安藤が映像を交えた詳細な視察報告を行いました。そして最後に、安藤とファッション・ジャーナリスト生駒芳子氏とのトーク・セッションが行われました。以下に、内容をご紹介いたします。

安藤宏基によるカンボジア視察報告

<はじめに> 日清食品の創業者・安藤百福は、戦後間もなくの食糧が不足していた時代に「食足世平(しょくそくせへい)」つまり、「食が足りてこそ世の中が平和になる」という企業理念を掲げました。国連WFP協会の活動は創業者精神「食足世平」の延長線上にあるものなので、4年前に亡くなった創業者が「本業以外にもこの仕事をしなさい」と私に命じているのだと考え、懸命に取り組みたいと考えています。

現在世界では、およそ10億人が飢餓状況にありますが、一方で16億人が肥満に陥っています。この状況は、何の手立てもしないと、2050年にはさらに悪化していくことが予測されています。食べすぎの方は少し考えて、分かち合いの精神を持つ方がいいかと思います。状況改善のためには、「もったいない運動」を推し進めていく必要があります。肉食化の進行は、大量の穀物が家畜の飼料として用いられるため、穀物価格高騰の原因になります。草食生活とのバランスをとることが大切ではないでしょうか。

<世界の飢餓とWFP 国連世界食糧計画> WFPは国連唯一の食糧支援機関であり、世界最大の人道支援機関です。飢餓問題は深刻な人道的問題であり、誰もが食べられるようにするというのは基本だと思います。それが叶って初めて世界的な平和があるのだと認識しています。

なおWFPの輸送能力は国連内随一で、ロジスティックスとしては世界最大、災害に対する緊急支援に関しても、WFPは一番の早さを誇っています。2009年度は75カ国で1億180万人に460万トンの食糧を配給しました。世界ベースで年間予算は42億ドル、日本円で3,570億円と大変大きな予算ですが、カバーしているのは飢餓人口の約11%程度です。全世界の政府機関からの拠出が97%を占めており、民間支援のシェアは3%です。国連WFP協会の寄付金は2010年度で5億6,000万円なので、残り約100億円強は米国が出していることになり、日本からの民間支援はまだまだ少ないのが実状です。WFPが担う重要な役目を考えると、私たちの協会は、これから5年間をかけて、年間30億円の支援ができるようにがんばりたいと思います。

<カンボジアの基本情報> 私費でカンボジアに行ってきました。最初は緑が多く、平原が広がっており、良い国だと思ったのですが、実際は雨季には川が氾濫して水浸しになり、乾季になると一転して干ばつが発生するという厳しい風土にあります。米も非常に痩せており、輸出品にはなりえません。都市と農村部の生活格差が著しく、農村地区の人々の暮らしを進展させるには、大変な時間・労力と費用がかかると感じました。

<カンボジアの飢餓状況> カンボジアでは、人口の30%が貧困ライン以下の生活を送り、18%は食糧貧困ライン(人が人として生活する上で最低限の水準)を下回っています。特に、2歳以下の幼児の80%、5歳以下の62%、出産年齢の女性の47%、妊婦の57%が貧血です。これは、米を中心とした食生活を行い、その他のたんぱく、脂肪分、ビタミン、ミネラル関係の摂取量が低いことが原因です。また、鉄分やアミノ酸を含む必須微量栄養素も不足しているので、5歳以下の幼児の39.5%は慢性的に栄養不良の上、28.8%が体重不足で、健全な発育を送ることができない環境を強いられています。

<カンボジアにおけるWFPの活動> カンボジアでのWFP年間予算は1,000万ドルつまり約8億円で、主に、学校給食プログラム(Food for Education)、母子健康プログラム(Maternal and Child Health)、フード・フォー・ワーク~労働の対価としての食糧支援~(Food For Work)が行われています。この予算には日本からの支援も含まれています。現在はWFPが政府の働きを支えていますが、近い将来、WFPの活動を政府が引き継いでいけるだろうと感じました。

<母子健康プログラム> 母子健康プログラムの現場を訪問しました。500名の妊婦と2歳以下の子どもが集まっていて、CSB(とうもろこしと大豆の粉にビタミンやミネラルを加えたもの)を乳児用の離乳食および妊婦の食事として支給していました。以前は米を食べるだけの偏った食生活のため、胎児の段階から発育が悪く、また、生まれてからも栄養状態が悪いため、大きく育たないという状況でした。しかしここ数年は、WFPの支援のおかげで、お腹が出た赤ちゃんの姿が減るなど、状況が改善されているそうです。また、WFPは母親への栄養教育も実施しており、たんぱくも摂取するように伝えていました。たんぱく源としては、ビーフ・ポーク・チキンも推奨されていましたが、大体食べられているのは川魚です。よって、実際のたんぱく源は魚およびWFPの提供するCSBのとうもろこしや大豆となっているようでした。このようにして、離乳食のレベルが上がり、母子の健康状態もよくなっており、大変価値のある支援が行われていると思いました。

<フード・フォー・ワーク> カンボジアで生産される米の85%は雨水農業で栽培されています。そのため洪水や干ばつの被害を受けやすく、灌漑設備の整備は必須です。そこでWFPは、米の収穫前4~5カ月間の収入がない時期に、住民の手で灌漑用水路を建設・整備し、その労働の対価として食糧を渡すフード・フォー・ワークを実施しました。視察をした地域では、64世帯165人が参加して作った、全長約1,200mの灌漑用水路を見ることができました。このプロジェクトに参加した農家の方々は、1㎥の土を掘るごとに3.5kgの米を、土手の斜面に1㎡の草を植えるごとに0.5kgの米を受け取っています。カンボジアでは、ポルポト政権時代の負の遺産として、隣近所との付き合いをしないなど、地域社会が崩壊してしまっていたのですが、このプロジェクトを通じて、皆が協力して作業をすることにより、地域社会が再構築されるという効果もありました。視察当日は、作業に参加した多くの女性が集まってくださり、資金の一部が日本からも出ていたということで、口々にありがたいと感謝の言葉を述べてくださいました。

<学校給食プログラム> カンボジアでは、貧困層の家庭では、親が子どもを労働させるために、学校に行かせません。しかし、WFPの学校給食プログラムで朝食が提供されると、食費が浮くので親は子どもを学校に行かせるようになります。子どもたちは、6時くらいから、家事や農業の手伝い、幼い兄弟姉妹の世話などを行ってから学校にやってきます。配られていた給食は、米にとうもろこしを混ぜ、魚醤(ぎょしょう)で味付けをし、空芯菜をのせただけの質素なものでしたが、子どもたちにとっては、これ以上ないほど最高のごちそうだそうです。子どもたちは教育を受けることで、将来への可能性が広がり、ひいては国の発展にもつながっていきます。将来何になりたいかを聞くと、先生か医者と答える子がほとんどでした。みんな貧しくても元気で、学校に来るのが一番楽しいと言っていました。そういった純粋な子どもたちを見ると、何とかしなければと強く思いました。

<視察を終えて> カンボジアが今後発展していくために、何をしなければならないかは、大きな課題です。農業改善は必須ですし、外国企業からの投資も必要でしょう。現状は、現地のWFPの活動は非常に効率的で、日本からの寄付がいかに生かされているかも感じましたが、今後は政府が引き継いでいくようにならなければいけません。アジアの貧困問題は、一時的な災害と違い慢性的・構造的なものなので、社会構造を変えることが必要です。そのためには、教育を地道に重ねていくことがその国の明るい将来につながると確信しました。

ファッション・ジャーナリスト生駒芳子氏とのトーク・セッション

生駒:本日のお話し、大変感銘を受けました。ビジネスの中枢、要職にある方が現地に行かれたということで、とてもインパクトがあると思いますし、力強いメッセージが届けられたと思います。現在、ファッションの世界では、これまでは違和感があるように思われていた「社会貢献」が数多く取り上げられるようになっています。まずは、現地に行かれて一番感動されたこと、行ってみるまで分からなかったことをお聞かせください。

安藤:母子健康プログラムの現場では、お会いすると皆さんの目から「ありがとう」という想いが伝わってきて心に訴えかけられました。またフード・フォー・ワークの現場では、顔にたくさんの皺がきざまれたおばあさんが、顔をしわくちゃにして「ありがとう」と握手を求めてきてくださいました。また、学校給食の現場では、瞳が澄んだ子どもたちが、「おいしい」という気持ちを顔いっぱいに表して給食を食べていました。こういった人々を目の当たりにして、支援がこんなところで役に立っていたのだということを実感しました。

生駒:会長が社会貢献や人のためになる活動などに興味を持たれたきっかけは何でしょうか?

会長:以前創業者になぜ働くのか聞いたところ、「いい仕事をすると、評価として利益に結びつく。」と言われました。つまり、金儲けを求めるのではなく、何か社会にとって良いことはないかという視点で働くことの大切さを教えられていました。それが根底にあるのでしょう。

生駒:日本企業はもっと社会貢献に取り組むべきだと思われますか?

会長:ある程度成熟しないと難しいこともありますが、やはり社会を考えずして自己の存立はあり得ません。富める者と貧しい者の間にもっと均衡が取られなければなりません。

生駒:これまで色々見てきた中から、地球の未来に一番大切なのは「教育」だと思っております。そして本日のお話を聞いて「教育」プラス「食」だと思いました。

会長:最低限の教育は必要。教育をきちんと受けて人材を育てておけば、将来の発展につながります。

生駒:今後のビジョンをお聞かせいただけますか?

会長:簡単ではないと思います。しかし、まずは賛同してもらうことが必要です。5,000円で1人の子どもの命を1年間つなぐことができるのです。まずは1人の支援からでもいいのでご協力をお願いしていきたいです。また、我々の活動の大切な支えとなってくださる評議員企業・団体も増やしていきたいです。ぜひご支援いただけるとありがたいです。

生駒:社会的視野を持って事業に取り組めば、企業の価値も上がりますよね。会社が未来を考えているのか、就職する学生たちも見ています。社会貢献をする企業の評価は上がると思います。

会長:言葉だけでなく、心から社会貢献を必要と考えるべきです。いまやエコロジーやサステナビリティー(持続可能性)が問われており、企業活動においても経済効果の追求だけではなく、持続可能な地球のためのマネジメントが求められています。飢餓問題、貧困格差をなくすには、セーフティーネットのような最低のサポートをする構造を築かなければいけないし、企業はそれを主導的にサポートするべきだと考えています。

終わりに

安藤会長は、皆様のこれまでのご支援に感謝するとともに、今後も寄付金を集める活動に力を注ぎたいと述べ、また、コーズ・リレーテッド・マーケティング(CRM)などの消費者参加型の社会貢献活動を通じて、民間支援を拡大させたいと協力を呼び掛け、講演を締めくくりました。