肥満と飢餓の「深い関係」
国連WFPや国連食糧農業機関(FAO)などが9月に発表した最新のデータによると、飢餓に苦しむ人々が増える一方、肥満に悩む人もまた増加しました。
肥満の人が最も多いのは北米です。ただ多くの途上国は、飢餓と肥満という二重の負担を抱え込んでいます。正反対に見えるこれら二つの問題は、食料確保の不安定さという同じ原因から起きているのです。
肥満も栄養不良の一種 成人の8人に1人
2017年、5歳未満児の2割を超える約1億5100万人が、慢性的な栄養不良のため年齢に比べ背が低い「発育阻害」に陥っています。また5,000万人以上の子どもたちは急性栄養不良に苦しんでいます。
一方で、5歳未満の3,800万人を超える子どもは体重過多で、成人も8人に1人、6億7,200万人を超える人々が肥満状態です。肥満に悩む成人の割合はここ数年、上昇し続けています。
もちろん先進国で、過剰なカロリー摂取のために肥満に陥る人も多いのですが、発育阻害の子どもの割合が高い国の多くでも、肥満が増加しています。
飢餓と肥満の両方を抱えているのは、主に貧しい国です。肥満も栄養不良の一種であり、所得が低い国ほど、さまざまな形の栄養不良が現れがちなのです。
「いつ食べられるか分からない」不安が食料選択に影響
逆説的に見えますが、食料が十分手に入らない環境が肥満を招いています。
栄養のある、新鮮な食べ物は、一般的に比較的高価です。食費が乏しくなれば、人々は安価で、たいていは高カロリーで低栄養な食品を選ぶようになります。こうした家庭の子どもたちはバランスの良い食生活を送れず、発育阻害や栄養不良に陥ったり、鉄分やミネラルなど微量栄養素が不足したりします。
いつ食べ物が手に入るか分からない、という不安感も、肥満を招く要因です。
食生活が安定しないと、ストレスや意欲の低下を招きます。思うように食べ物を確保できないストレスを抱えた母親は母乳の分泌が悪くなり、乳児の栄養状態に悪影響を与える恐れもあります。
こうした人々は、ひとたび食べ物が手に入ると、次はいつ食べられるか分からないという心理から食べすぎたり、食材が偏ったりしがちです。あるいは食べ物を買うお金が手に入った時、値段が安くたくさん買えて、満足感の得やすい、カロリー過多で砂糖や塩、脂肪分の多い食べ物を選んでしまいます。このような食べ物はごく短い間、生理的な満足感を与え、ストレスを和らげる効果があるためです。
乳幼児期の栄養不良、肥満リスクを高める
食料を定期的に入手できず、食べすぎと空腹を交互に繰り返すと、代謝機能が変化して脂肪が増え、筋肉がつきづらくなる恐れがあります。また食べ物をたくさん摂った時に、体重が急増しやすくなるとも指摘されています。
さらに、人は胎児の時期や乳幼児の間に十分な食事を摂れないと、代謝機能に悪影響が及びます。その結果、成人になった時の肥満のリスクが高まり、食生活に起因する病気を引き起こしやすくなります。
WHOは「低体重で生まれたり、幼児期に発育阻害だったりと栄養不足にさらされた子どもたちは、大人になってカロリー過多の食事や運動をしない生活を送った時に、肥満に陥るリスクが非常に高まる」と警告しています。
母体の栄養不足も体重過多も、必要な時に食べ物を確保できない環境で起こります。そして子どもたちの代謝機能や神経内分泌系に影響を与え、世代を超えた栄養不良の悪循環を引き起こすのです。
食料の安定確保で悪循環断ち切る
では、途上国を苦しめる飢餓と肥満を解決するには、どうすればいいのでしょうか?
まずは、人々が食料を安定的に確保できる環境を整え、世代間の栄養不良の悪循環を断ち切ることです。
子どもが胎内に宿ってから2歳までの「最初の1000日間」は、発育阻害と肥満、両方を防ぐのに最も適した時期です。生まれてから6カ月の間に良い母乳を与え、その後も適切な離乳食、食事を与えることが、生涯にわたって成長と発達に良い効果を及ぼします。
このように、栄養不良の悪循環に歯止めをかけるには、乳幼児や学齢期の子どもたち、そして妊娠、出産を控えた若い女性ら、最も弱い立場の人々にこそ、安定的な食料確保の道を開く必要があるのです。
国連WFPは乳幼児と妊産婦を対象とした母子栄養支援、学校に通う子どもたちへの給食支援を通じて、こうした人々へ食料を届けています。