AI(人工知能)は飢餓撲滅の鍵となるのか?

AIは飢餓撲滅を可能にするのか?
飢餓をゼロにするという目標の達成はとても大きな課題です。あらゆる有益な方法を利用して人道支援を行う必要があります。より賢明で迅速な方法によって飢餓撲滅に取り組むためにAIは極めて重要なツールです。しかしAIだけで飢餓を終わらせることはできません。最高のテクノロジーと最高の学術研究の連携、そこへの投資が必要です。AIと人的要素の強力なサポートが両立することで、飢餓のない世界の創出に大きな役割を果たすことができます。
どのように人道支援セクターにおおいてAIを活用するのか?
様々な人道支援の取り組みでAIが利用されています。AIによって人道支援のための時間や資金が節約され、その分だけ範囲を広げてより大きな影響を与えることが可能になります。緊急支援では、被害査定の時間がAIにより数週間から数時間に短縮されるため、支援が必要な人びとのもとへ対応者はより迅速に到達できます。AI先導型モニタリングによって人間の目では見えない物まで発見し、捜索救助任務を支援することができます。さらに任務を誘導することも可能です。
莫大な量のデータ処理が可能なAIモデルは、配布リストの目標設定を改善し、重複する箇所を見つけることができるため、最も必要とする人びとに支援が届きます。サプライチェーンにAIを適用することで、食料援助のより効率的な調達方法や経路を特定するのに役立ちます。異常気象によって命と暮らしが危険にさらされている場所では、ドローン技術とAIモデルを組み合わせることにより、栽培可能な作物について土壌の分析や伝染病の早期発見、その他の要素に基づいた指針を提供することができます。また、時間のかかる単純作業をAIにやらせることで、人間は創造的に考え、より意義のある影響をもたらすことのできる分野に集中できます。
AIを使用し人道危機の課題の対処に成功した事例は?
- DEEP(緊急画像分析デジタルエンジン)は、ドローンによる映像を自動で分析する機械学習アプリケーションです。大規模な緊急支援において被害状況査定にかかる時間を短縮します。一日に最高でも2,000件のマニュアル方式と比べ、数時間で数万の構造物の査定が可能です。2022年にハリケーン「フィオナ」がカリブ海に大きな被害をもたらした時、国連WFPは映像を数時間で走査分析することができました。DEEPがなければ3週間かかっていたでしょう。この技術のおかげで私たちは、甚大な被害を受けた地域をヒートマップによって正確に特定し、かつてない速さで支援を届けることができました。
- SKAIはオープンソースのツールです。高度な機械学習を用いて災害時の被害状況の把握を大幅に加速させ、非常に重要な洞察をマニュアル方式の77パーセント安い費用で13倍速く供給し、被害に対応することができます。国連WFPがGoogle Researchと協力して開発したこの技術は、2023年のトルコ・シリア地震、2022年のパキスタン洪水などの危機で使用されました。
- 「事業重複排除ソリューション (Enterprise Deduplication Solution) 」は高度なアルゴリズムを用いて国連WFPの受益者データベースを調べ、99.99パーセントの正解率で問題を検知します。これまでに国連WFPの国事務所のうちの3カ所でこのシステムが試行されたことで、40万米ドル近くまで資金を節約できました。独立した評価により、国際データプライバシー・セキュリティ基準に準拠していることが確認されています。
- SCOUTは統計的なインサイトツールで、国連WFPが何をどこからいつ購入するか、それをどのように保存し支援活動に届けるかという重要な意思決定を支援します。西アフリカでは、ソルガム(イネ科の穀物)の調達および配送の長期的計画を通して、2024年に国連WFPは200万米ドルの節約ができました。


インフラや通信接続が限られた地域におけるAI使用の課題は?
私たちが仕事をしているコミュニティのほとんどは、インターネットや通信へのアクセスが制限された地域にあり、災害時にはさらに制約を受けます。そのような場所ではDEEPのようなツールがとても重要になります。被害査定に使うドローンは通信や高度なコンピューターのインフラを必要としません。AIが、富める国と貧しい国との間の「情報格差」をさらに広げるべきではありません。そのため、この利便性のある技術がオフラインで利用可能であることが大切です。
人道支援セクターにおけるAI利用のリスクは?
データプライバシーが最も懸念される問題です。そのため、AIを使って住民の個人情報を処理する場合、確実に機密性を保持できる対策を施すことが極めて重要です。さらに、不完全なデータに依存したモデルを使用することで、既存の不平等を減らすどころかさらに強めてしまう偏向のリスクもあります。恩恵を受けるべき人びとが、それを必要としない何者かのパターンに一致しているという理由で排除されてしまうこともあり得ます。だからこそ、センシティブで運命を左右するような状況では特に、利用者が結果の理由を明確に理解できる解釈可能なモデルを使用することが重要になります。
「AIが人的要素に置き換わるべきではない。」
もう一つのリスクは、 AIが作り出す結果の理由を理解しないでそれに依存することです。人道支援では、システムの内部の働きが見えないブラックボックスのモデルをやみくもに信じるわけにはいきません。AIでも間違えることはあります。結果が信ずべきものに思えても、額面通りに受け取ることはできません。人道支援活動では、AIがその決断をした理由を知り、正しいデータと間違ったデータを区別する必要があります。AIの世界は進化がとても速いので、使用方法を常に見直し、適切で安全であるかどうか確認することが大切です。究極的に重要なことは、AIが人的要素に置き換わるのではなく、AIが人的要素の向上を図るべく機能することです。
飢餓撲滅を成功に導くチャンスは?
パートナーシップによって大きなチャンスが生まれます。多くの民間企業はすでに、人道支援セクターで使用できるAIモデルや技術の創出し、スーパーコンピューターのようなAIインフラ、すなわちパワフルで高性能なモデルの創出にも多額の投資をしてきました。応用可能な研究を行う学術機関もあります。そのような企業や団体と協力すれば、人道支援機関で「車輪の再発明」をする必要はありません。
国連WFPは、様々な業務でAIを効果的に活用し、あらゆる対応の中心に人びとが居続けることを確実にするため、初めての人工知能戦略を開始しました。
本記事への貴重な貢献に対し、以下の方々に感謝いたします:Magan Naidoo(国連WFP最高データ責任者)、Marco Codastefano(国連WFP機械学習および人工知能コンサルタント)、Patrick Mackay(国連WFP 無人航空機システムデータ運用マネージャー)