Skip to main content

アフリカでの私の10年: 人道支援から持続的な平和・開発へ

津村康博 国連WFPシエラレオネ事務所副代表
, WFP日本_レポート

Jun 12

0*ddhqodP4g6INYOmN.jpg
干ばつにより水、牧草地、耕作地が被害を受けたモーリニタニアで

東京大学卒、上智大学大学院修了。民間企業・団体を経て、1998年より国連世界食糧計画に勤務。ローマ本部で政策調整や給食事業、日本事務所で対政府連携を担当したほか、コソボ、ケニア、中央アフリカ共和国、コンゴ民主共和国、セネガル、モーリタニア、シエラレオネで食料支援の実施に関わる

TICAD3

2003年9月29日朝、私は東京のホテルの大会議場で、小泉純一郎総理大臣(当時)の第3回アフリカ開発会議(TICAD3)開会スピーチを聞いていました。その時「平和の定着」という聞き慣れない言葉と、アフリカの国家元首や政府首脳が一堂に会した場に圧倒されていたのを覚えています。当時、国連WFP日本事務所の政府連携担当官であった私は、国連WFP代表団幹部と日本政府、アフリカ諸国要人との会談の準備・調整で多忙を極めていました。それから15年以上たった今、国連WFPに就職して21年になります。キャリアの後半約10年にわたり、アフリカの6カ国-ケニア、中央アフリカ共和国、コンゴ民主共和国、セネガル、モーリタニア、そして現在はシエラレオネに勤務しています。

難民・国内避難民の支援

私のアフリカでの初仕事は2008年に派遣されたケニアでの緊急支援でした。アフリカの多くの国では、選挙という民主主義の根幹をなす政権交代プロセスが高いリスクをはらんでいます。長期にわたり政権にある国家元首が再度出馬した場合、対抗勢力が激しく反発、これに民族的対立が油を注ぎ暴発するというパターンです。ケニアもそうでした。国内で家を追われる人々が続出し、こういった人々に国連WFPは緊急食料支援を行いました。

0*HyrbIcrfHkDvwXUT.jpg
国内避難民への緊急食糧支援現場で(中央アフリカ共和国北部)

その後、中央アフリカ共和国、コンゴ民主共和国、セネガルを経て、2016年に国連WFPモーリタニア事務所副代表として赴任。東部のマリ難民支援に関わりました。難民キャンプ内では人道支援を当然視する過度の依存が高まりつつありました。同時に、行きどころのない青少年が麻薬の売買や過激派への参加などに走る傾向もありました。これを受け、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)と連携し、現金と食料を組合わせた支援を行ったり、難民の経済状況を調査し、どのような支援が最適か、どのような公共インフラの建設や収入創出のための訓練が難民・周辺住民に最も必要で実現可能かなどの議論を続け、活動にあたりました。

気候変動と自然災害、レジリアンス

私が2012年から2016年にかけて勤務した国連WFP西アフリカ地域統括事務所のあるセネガルとモーリタニアは、いわゆる「サヘル」というサハラ砂漠南縁とステップ地帯の間に広がる乾燥地域です。サヘルは降水が少なく不安定で、気候変動の影響も相まって干ばつが常時発生しやすい状況にあります。一方で干ばつの発生は、地震や洪水など突発的な災害と比べると周期的で、発生に時間ががかかることもあり、予測と準備が比較的可能です。過去の教訓に学び干ばつ対策の動きが過去10年間で盛んになってきています。

モーリタニアでは、国連WFPが食料安全保障・脆弱性分析システムを用いて現地政府の早期警報システムを強化するとともに緊急準備対応計画を作成し、諸機関の緊急対応の調整や、既存の生活保護システムを拡大して最も弱い人々や被災者に支援が届くようにする枠組み構築を現地政府や、国連児童基金(UNICEF)、NGOとともに行いました。その結果、2017年の干ばつに対し同年内から準備を始めることができ2018年の緊急支援はどの国よりも早く開始できました。国連WFPは、気候変動による砂漠化や土壌の劣化を防ぎ、干ばつや洪水などの災害が起こりにくくする、またたとえ起こってもその被害を軽減する取組みを現地の人たちとともに行っています。干ばつなどの「ショック」が起きても、例えば枯れない池があったり、食料を備蓄し村内で融通するシステムがあれば、被害を抑えられます。このようにショックに対し、「しなやかに」に対応する能力「レジリアンス」を強化する取り組みは、長期的な開発支援にあたります。多額の大規模人道支援活動に比べ、ずっとコスト効率の良い投資です。

1*BwwbI4K1y8yMbOoxHtnadA.jpeg
日本農林水産省事業の支援で水田整備作業を行う、農民グループとの意見交換(エボラ終息直後のリベリアで)

シエラレオネ 人道支援から開発と平和の定着の支援

昨年8月から、国連WFP現地事務所の副代表としてシエラレオネに勤務しています。この国は世界で最も寿命が短い国としても知られており(平均寿命53歳)、国連開発計画(UNDP)の2018年人間開発指数国別ランキングでも189か国中184位とかなり低いです。1991年から2002年にかけて、ダイヤモンドなど鉱産資源もからんだ血みどろの内戦がありました。映画『ブラッド・ダイヤモンド』はまさにその時代を背景にしています。この内戦はもともと開発度が低かったシエラレオネで多くの人々を殺傷し、社会基盤を徹底的に破壊し、社会の紐帯を切り裂きました。

2014年から2016年には、シエラレオネだけでも4000人近い死者を出したエボラ出血熱が大流行しました。エボラは国連WFPにとっても未曽有の危機でした。私は人道支援の初期段階に首都フリータウンに派遣され事業拡大に関わったのですが、前例のないケースが多いために物事が進まず、政府主催の危機対応会議も連日長時間続きました。ロジスティクスに強い国連WFPには、焼却炉やエボラ患者隔離所の建設、車両(死体運搬車すらも!)の輸入などの支援の依頼が飛び込んできたことも少なくありませんでした。また、感染リスクの高い環境下で、職員の安全を確保しつつ、人道支援を行うというのも大きな試練でした。

さて、2018年の独立以来初めて独自の選挙による民主的な政権交代が行われ、シエラレオネは今、復興から開発に向けて大きく舵をとったところです。特に、大統領自ら学校教育の強化を重視し、無償教育キャンペーンを打ち出したほか、政府学校給食プログラム費用も政府予算に計上されたことは特筆に値します。国連WFPは政府開発戦略計画への支援を強化し、小規模農家の生産向上、市場へのアクセスと学校給食による安定した食料ニーズの創出を組合わせ、持続可能な学校給食プログラムの確立を目指します。

国連WFPは人道支援というイメージが強いのですが、設立以来、経済社会開発と人道支援の両方を任務としています。最貧の人々に食料支援を届け、人々の食料需給・消費状況を分析し、農業食料生産や流通の支援も実施します。国連WFPは紛争の予防、紛争下の人道支援、平和の構築、人道と開発のネクサス(連携)を食料安全保障の切り口から一貫してサポートすることができる数少ない組織だと、私は確信と誇りをもって言えます。

学校菜園でとれた野菜は、単調になりやすい給食メニューにバラエティーを与え、子どもたちの栄養の知識や簡単な野菜栽培技術の習得に役立っている

1*hLSf77qwysUQUzHCkq20BA.jpeg
学校菜園でとれた野菜は、単調になりやすい給食メニューにバラエティーを与え、子どもたちの栄養の知識や簡単な野菜栽培技術の習得に役立っている(シエラレオネ)

シエラレオネにおける日本との連携

エボラ緊急支援を含めたこれまでの日本の外務省の食料支援関連拠出により、国連WFPシエラレオネにとって日本は、支援高のみならず、最も長期にわたり切れ目なく支援を行っている最大の支援国です。国連WFPシエラレオネ事務所を代表して感謝の念と敬意を表します。

農林水産省とは2017年末より新たな5カ年事業が始まり、食品栄養群や日常的に摂取する食物の栄養価等、栄養に関する基礎的知識に関する啓発活動、および農民グループ等を通じた米の販売のサポートなどによる小規模農家の収入向上を支援しています。

2018年にはJICAとも協力覚書を締結。JICAの優れた水田灌漑設備技術、稲作普及技術を国連WFPの自立支援(労働の対価として食料を支援)、モニタリング・コミュニティー動員能力、学校給食との相乗効果を組み合わせ、より大きな効果を生み出そうとしています。

日本の民間企業とは、メンテナンスや修理のサービスを伴った簡単で良質な機器の導入、生産食料の加工・貯蔵、物流の強化、あるいは高いIT技術によるニーズ調査やモニタリング・早期警報能力の強化、遠隔地の住民の金融サービスへのアクセス支援などで連携できないか模索中です。また、日本のNGOやプロフェッショナルの方々にも、ぜひシエラレオネに技術や経験を持ってきていただきたいです。

アフリカでの日本に対する好感度は高く、日本の支援は大きく評価されています。日本政府が25年以上にわたり、TICADを通じてアフリカへのコミットメントを着実に、定期的に発信してききたことも大きいと思います。様々なODA支援や日本車に代表される高品質の日本製品、インフラ設備、JICAによる招へい技術研修や青年海外協力隊や、技術専門家の方々の貢献も高い好感度を支えてきました。それでもまだ、アフリカにおける日本のイメージは自動車やハイテクなどが主で、日本人の「顔が見える」人的貢献・交流がもっと増えてよいと私は感じています。アフリカの多くの国々はまだまだ不安定で様々なリスクがありますが、同時に未知数の人的・自然資源に溢れています。アフリカ各地で持続的な平和と開発が進めば、飢餓撲滅どころかアフリカ諸国が魅力的な市場、さらにはパートナーになるのは理想論ではなく、十分可能であるとも信じています。TICAD7が日本の企業、NGO、個人がアフリカにもっと興味を持ってコミットする機会になればと期待します。