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「飢餓と栄養不良は、なくせないものではありません」世界食料デーに寄せて

WFDstatement

WFPは、世界120の国と地域に拠点を持ち、緊急時には人道的な食料支援を行い、中長期的には食料安全保障や災害に対するレジリエンスを強化する支援を行っている国連機関です。

食料は空気や水と同様に、生命を維持するために欠かせないものであり、すべての人には「食料を得る権利」があります。

しかしながら、世界の飢餓のレベルは15年前の水準に後戻りしており、現在、世界には約7億5700万人 の人々が慢性的な飢餓に苦しんでいます。その80%がアフリカと南アジアに集中しています。同時にアフリカ、中東、カリブ海沿岸では飢餓が増加傾向にあります。また、命や生活に急激に支障をきたす、急性飢餓に該当する人の数は70か国で3億人以上います。2020年のコロナ禍前と比べると16000万人の増加です。急性の飢餓は、紛争、気候変動、経済的な危機といった要因によって引き起こされます。

こういった世界の飢餓の現状がありますが、実は、地球上ではすべての人が食べられる分以上の食料が生産されています。食料がある、ということ自体が飢餓の解決にはならないのです。

すでに40年以上前に経済学者のアマルティア・センが著作「貧困と飢餓」の中で述べていますが、バングラデシュやエチオピアでは、実際には十分な食料がありながらも、災害や経済的なショックで人々が食料を入手する手段を失い、飢饉が発生しました。

私たちは食料の安全保障の概念を包括的にとらえる必要があります。

WFPの活動の主軸として、食料安全保障(Food Security)には4つの重要な要素があると考えます。
1. 十分な量の安全で品質の確かな食料があること。
2. その食料にアクセスできること。ここでは人々の収入や食料価格、市場への物理的なアクセスも問題となります。
3. 入手した食料を適切に消費し、栄養価として吸収できること。
4. これらの状態が安定して維持されること。

いずれか一つが欠けても、食料不安状況に陥ってしまいます。

世界の多くの発展途上国といわれる国々では、この食料安全保障が確保できず、残念ながら、飢餓のレベルの中でも最も深刻で「壊滅的な」食料不安が前例のない水準で高まっています。これは、飢えによる「死」に直面するような状態であり、スーダンでは75万人、ガザでは50万人、南スーダンでは8万人がこのレベルの飢餓に直面しています。今年8月には、スーダン西部のザムザム避難民キャンプで「飢きん」が宣言されました。「飢きん」とは、人口の20%以上が壊滅的な飢餓状態にあり、子どもの30%以上が急性栄養不良に陥り、成人1万人あたり2人、子ども1万人あたり4人が毎日死亡している状態を指します。スーダン全土では人口の約半数にあたる2600万人が急性の飢餓に直面し、1000万人以上が家を追われ、国内外で避難生活を余儀なくされています。スーダンとその周辺地域は、現在、世界最大の飢餓危機に直面しています。

また、気候変動が食料安全保障に与える影響も深刻です。今年はエルニーニョ現象の影響で、特に南部アフリカで干ばつが発生しました。これにより穀物の生産や家畜の飼育に重大な被害が及び、深刻な飢餓に直面している地域があります。保護指定の野生動物を捕獲し、食用にせざるを得ない状況にまで追い込まれている国も出てきています。一方、アジアや西アフリカでは豪雨による水害が各地で頻発しています。

WFPは、これらの紛争や気候災害の最前線で命を救うための食料支援を行っています。

日本でも気候問題、食料問題は身近なものになってきていて、豪雨による水害が多発しています。この度の能登での記録的な大雨による水害もそうです。

気候変動による海水温の上昇が日本近海の漁場に影響を与えたり、夏の暑さが野菜の発育や収穫に影響を及ぼしたりして、農水産品の不足や価格の乱高下が起きています。購入量の増加と生産量の減少により今年はコメの価格が過去10年で最高値となりました。日本は多くの食料品を輸入に依存していますが、例えば海産物のタコは多くが西アフリカのモーリタニアから輸入されているように、日本は途上国にも多くの農産品を頼っています。日本の豊かな食卓はアメリカやオーストラリア、ブラジルや中国のような農業大国のみならず、途上国にも依存しているのです。

また、現代の日本国内における飢えの問題もあります。子どもの給食費を払えない世帯、貧困のため孤独に餓死する人。日本において、貧困世帯を中心に食への「アクセス」が脅かされ、食料の安全保障が一部危ぶまれるものではないでしょうか。

では、食料の安全保障をいかに確立していったらよいのでしょうか。

WFPは、同様の立場から、食料システム全体を強化し、人々が安定して安全な食料を得ることができるよう支援しています。生産から収穫、貯蔵、加工、流通、消費に至るまで、全ての過程でロスを減らすことが重要です。例えば気候変動対策として、食料システムがショックに強くなるよう、コミュニティや国々が災害に備えることを支援し、干ばつ対策の貯水施設や洪水対策の排水路、早期警報システムの整備などを支援しています。また、気候保険の整備や食料の備蓄の強化サポートなども行い、災害時に被災者が遅滞なく必要な支援を受けられるようにしています。

さらに、貧困層が食料にアクセスできるよう、セーフティネット制度の強化を支援し、受益者の選定や登録、モニタリングの体制を整えています。

WFPの主要な活動の一つでもある学校給食プログラムは、食料システムの強化に大きく貢献しています。子どもたちの食料へのアクセスを確保し、栄養や健全な成長を支え、継続的な学びの機会を得る重要な役割を果たしています。親が子どもを学校に通わせるインセンティブとなると同時に、子どもたちのセーフティーネットとしての役割も果たしています。

そこでは学校菜園を通じて、新鮮な野菜などの微栄養素を多く含む食べ物を「適切に摂取する」ことを学校で教えたり、給食の食材を地元の小規模農家から安定的に調達して農家の生計に貢献することで地域の農業・経済の持続的な活性化にも役立っています。

学校給食を軸に、未来を担う子どもたちの教育を支え、コミュニティー全体の発展にも寄与していくモデルになっています。

飢餓と栄養不良は、なくせないものではありません。「食の権利」のはく奪の結果です。知見とリソース、そして思いやりをもって社会が、国家が、国際社会がいろいろなレベルで取り組んでいけば慢性的な飢餓は減らしていくことが可能なはずです。

 

WFP国連世界食糧計画 日本事務所
代表 津村 康博

トピック

食料安全保障 飢餓をゼロに

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WFP 国連世界食糧計画 日本事務所 広報

富田 絵理葉 eriha.tomita@wfp.org

田中 理子  satoko.tanaka@wfp.org

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